【書評】 浜 矩子、『グローバル恐慌―金融暴走時代の果てに』

65億の人たちが、それぞれに綱渡りをしている。そしてそのことに気がついていない。


わたしたちはいま、どこにいるのか?
要するに、自分たちは、自分の立ち位置をしっかりとつかめているのだろうか? そういうことまで考えさせる本が、浜矩子さんの新著だ。

浜さんに関しては、以前よりテレビでなかなか鋭い切り口と比喩で現状を明らかにしていたのを見て、参考になったことがある(たとえばNHKBSのディベート番組)。

しかし、浜さんはその程度のちょっと優れた経済学者、ではなかった。

ほとんどの経済学者が、現在の悲惨なまでのグローバルな政治・経済状況を把握しきれないでいる。ある人は、アメリカ経済が悪いといい、またある人は新自由主義のせいにする。またある人はCDOやCDS、また土地バブルのせいにする。またある人はFRBのせいにする。
そして来るべき時代のグランドデザインを描け、と書く。本人にはデザインを描く能力がない。

世界の全体像をグリップし、さらに今後の対応策まで持ち合わせている人は稀である。しかしそういう人はいるものだ。それが可能な学者が日本という地域にいることはけっして偶然ではない。10年前、日本地域はあやうく恐慌を引きおこす元凶になりそうだったのだ。そういった危険、いや危機を眼前にしていれば、人はなにかを考えざるをえないからだ。


<いま起こっていることは、経済の危機でもある、またそれは社会科学の限界の露呈でもある>と個人的には思っていた。
現在起きていることは、資本主義自体の危機crisisであり、また恐慌depression=うつ病であり、資本主義がある意味で終わってしまい、内部から音をたてて瓦解している。日々崩れてゆく耳をつんざく音が聞え、途切れることがない。ダンテの『地獄編』の再現のようである。


さてイントロが長くなったが、本書『グローバル恐慌』である。

よくこの短期間にこれだけの内容をまとめたと率直に思う。また類書をぶっちぎりですべて抜きさっている。項目を並べる形で要約する。

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はじめに
現在は「恐慌」である。

第1章 何がどうしてこうなった
いままでのおさらいになたる部分。リーマンショックからはじめる。AIG救済。朝令暮改のアメリカ政府の政策。グラス・スティーガル法。章の後半は、証券化は「飲み屋の福袋作戦」であること。円は隠れ基軸通貨であること。ジャパンマネーはグローバル恐慌の原因にかかわっていることについて。

第2章 なぜ我々はここにいるのか
こんかいの金融危機の出発点は、ニクソン・ショック。アメリカの、「王様は裸だ」宣言。金利自由化から、証券化になぜ至ったか。いわゆる「金融スーパーマーケット」。カネとモノの遊離。カネの一人歩き。

第3章 地球大の集中治療室
いま、地球経済は集中治療室にいる。アメリカの金融安定化法。バズーカ砲。買い取りか、資本注入か? 欧州の政策の足並みの乱れ。アイルランドとアイスランドのケース。生命維持装置がついている現状。日本の場当たり的政策

第4章 恐慌を考える
「魔法使いの弟子」と同じであること。資本主義経済との決別をしてしまった? 恐慌には2種類ある。1929年との違い。現在は、銀行の倒産を避ければいいわけではないこと。保護主義はナショナリズムの危険性は非常に高まっている。二一世紀グローバル恐慌の性質。内生的。管理通貨制度下の恐慌。基軸通貨国であるアメリカが管理通貨制度に移行したことが今回の恐慌の遠因である。

第5章 そして今を考える
G20(昨年11月14、15日)の危機感のなさ。地球経済にふさわしい金融の自由度の限界をどこに設定するか。金融と通貨の関係も考えるべき。カネがモノの不況を呼ぶ。瞬時に大不況へ。アメリカ経済の前途はきわめて厳しい。中国経済はタイタニック号である。統制経済ではだめである。

おわりに
近づく保護主義。起きうるのは通商戦争と通貨戦争だ。モノの世界との結びつきの回復。基軸通貨という考え方は現在にはなじまない。
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この本の勝因は、専門的な事象を的確なメタファーを存分に使いつくしているところにある。興味がある社会人や大学生ならば、つまりいま起こっている「地獄」をきちんと見る勇気がある人ならば、充分に読めるだろう。もちろん説明不足のところもないわけではないが。自分自身、多くの書き込みをし、またメモも取った。いったいどこがどう綱渡りなのか、それがわかる。

とくに第4章の恐慌論の部分は、専門的になりすぎない範囲で現在の恐慌を位置づける試みをしている。ここが白眉であり、本書の中心ではないか。といっても、やや古色蒼然とはしている部分もないわけではないけれど。
第5章は失速、というか素描状態で、この先を読みたいところ。



(付録)

いくつかの個人的な疑問点 :

なぜ、デフレ化なのにもかかわらず、資源インフレが起きたのか?(これは本書にある)

アメリカや欧州の中央銀行(FRBとECB)は、このままだと破綻してしまうかもしれないが、それをどうやって回避するか?

かりに今回の恐慌が何年後かにおさまったとしても、こんどはさらに大きなバブルが地球上のどこかで起き、またバブル崩壊になるだろう。通貨の供給量が多すぎる!
要するに現在のグローバルな経済システムではもうやっていけない。ではどう新しいシステム構築をするか?

これからまだ地獄からぞろぞろとゾンビや猛犬などが出てくるだろう。日々というものはそれなりに過ぎてゆく。しかし歴史の巨大な動きというのは、その日々のなかから紡ぎだされてゆく。目を背けるのも可能だが、しかしこの恐慌は容易に自分のことになりうるものだろう。

経済学でたまに耳にする言葉。「不況は知り合いが失業することで、恐慌は自分が失業することだ」。


http://extra.at.webry.info/200803/article_13.html
(これは昨年3月のエントリー)

現在の恐慌に対する自分自身の考え方は後日書く予定。
誤植: p.18、デヴュー × ⇒ デビュー ○
    p.105、EC ×  ⇒ EU ○ (前後関係からすればECではないでしょう)



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この記事へのコメント

j,jj
2009年02月01日 00:58

口がへの字の教授ですね、テレビトークでみますが
 ファンです。 国民全体にお金が潤沢にまわつて
 欲しいものです。
j,jj
2009年02月01日 00:58

口がへの字の教授ですね、テレビトークでみますが
 ファンです。 国民全体にお金が潤沢にまわつて
 欲しいものです。
田中公一朗
2009年02月03日 20:04
そうです、そうです。けっこうテレビに出てらっしゃるんですね。

全体にお金が潤沢にまわる・・・それはバブルですw

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