階段について On Steps

畠山直哉の写真をなにげなく見ていて、まったく関係ないことに思いが及ぶ。階段に関してである。

自然界を登山家のように歩いていると、そこには階段状のものは存在しないことに気がつく。決して存在しないと言ってもいい。階段のようになっている場所はないことはない。たとえば逆断層の斜面だ。しかしそういう階段も踏み幅は一定ではなく、ステップそのものも水平ではない。

階段というのは、人間が作ったもっとも偉大で、また反自然的な構築物だ。これこそがミクロやマクロな権力の発生源であるし、また芸術の発祥でもあるのではないだろうか?



少し話しを急ぎすぎたかもしれないので、具体的な事例を考えてみよう。



たとえば演劇の舞台というものを考えてみる。演劇では「舞台」というものが必要であり、舞台という考え方が演劇を生んだ。では舞台はどういうストラクチャーをしているかといえば、これは段差なのだ。もし古代ギリシャやローマの舞台を写真ででも見てみれば、ほぼ例外なく階段状になっている。現代とは違って、舞台のほうが下部にある。スープ皿でいえばその底面に舞台があって、周囲がせりあがり、せりあがりの斜面に切り込みが入っていて、そこが観客席にあたる。コロッセウムも基本的に同じ構造である。舞台はアリーナarenaにある。プロセニアムprosceniumはまだない。
河岸段丘を思い起こす人もいるだろう。これが河原であり、演劇、歌舞伎が河原で起こっていることとも歴史的関係があるかもしれない(ないかもしれない)。


さきほど「自然界には階段状のものはない」と書いたけれど、道には階段がつけられる。斜面は滑らかに変化するものだ。しかし人間の脚の構造は平坦な土地を歩くのに適しているだけだからだ。
それで斜面を切り崩し、細分化し、そこに平坦なスペースを作る。それが階段なのだ。

階段では、人間のもつ眼の認知構造が関係するだろう。人は縦と横を異なって認識するからだ。知られていることでいえば、物理的には同じ長さの直線を、人は縦と横で違う長さとして認識する、というようなことから3次元における錯視ということまで。

当たり前のことを書いているようにうかがえるかもしれない。しかし世界各地のピラミッドは細かく階段がついている。古代の人々はここに捧げ物、供物、犠牲をそなえた。人を埋めた。山羊や幼子をささげた。この階段構造に神々への滑走路を見つけていたのだ。神々へといたる経路は階段であり、それが神聖さの源泉であったのだろう。


すぐに気がつくように、この、階段状にして斜面を解決する思考は、ライプニッツや関孝和の微分法の仕事に見ることができる。人間にとっては斜面はやっかいなものなのだ。そこに細かく階段をつける作業が微分や差分といえる。


しかしここではもはや「捧げもの」「犠牲」という意識は消えかかっている。人間をはるかに超越したものを傾きや図表のなかに見出そうとする試みは大幅に減っている。いまや舞台構造は、世界のあちこちに出現する。F´という数式のなかに神はいるのであり、それは信仰の対象ではない。数学そのものは信仰にはならない。同様のことは、音楽でも起きた。斜面のように滑らかに変化する音を、12の音に封じ込めた。



現在では地下鉄やマンション、半地下への経路だけでなく、また水路への降り口や非常階段だけではなく、いたるところに階段を認めることができる。コールハースが『錯乱のニューヨーク』で紹介しているように、エレベーターという移動手段は20世紀のものであり、人類史のなかではつい最近のものだ。

階段をあちらこちらに作ったことで、人類は本当に神を失った。失ったものを回復させるのはとてもむずかしいだろう。いまでは神という言葉は「才能がある人」という意味で使われることが多い。それくらい人は「偉く」なり、畏れるもの、絶対にかなわないものを喪失した。

となると次に考えることは「新たな階段」、ということだろうか? よくはわからない。しかしそれは芸術の革新や新しい演劇運動やかつてない宗教、といったものではないだろう。いまは夜明け前、東の空が明るくなり、世界がブルーに見える時間なのだ。






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