【書評】 田中明彦、『ポスト・クライシスの世界』


ポスト・クライシスの世界―新多極時代を動かすパワー原理
日本経済新聞出版社
田中 明彦


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田中明彦さんは、『新しい中世』という概念を広めた(現在はある意味で「中世」だ)が、その時間軸の応用が本書にもある。もちろんそのことを知らなくても、充分読める本である。

というのも、この本は口述筆記であるからだろう。話は多少飛躍するとはいえ、平易といえば平易であるし、参考文献がないというような本である。そう、text教科書のような体裁と文体、構成を持ってもいる。それもこれからなにが起きそうか、またどの点に注意すべきか、ということが書かれた教科書。


中国とインドが圧倒的に力を持ってきたが、これはもともとの力を回復してきたことなのだ。こう田中さんは考える。その点はまったく同感だ。

というのも、経済的に繁栄するには、過去の文化的蓄積が必要だから。その意味で、過去に「帝国」を構成していた地域は経済的に飛躍する可能性がある。たとえばトルコやイラン、イラクにも本来はあるのだろう。

話題がそれそうだ。
さて中国に関しては、日本とアメリカが緊密に連携を取りつつ、いかにナショナリズムが起きないようにするか、そこを重要視している。たしかに、中国が「中華主義」に戻ってしまうと、だれにとってもいいことはない、と言う。


現在の国際社会というのは、すぐに戦争や紛争でものごとを解決しようという流れにはない。とくにオバマ大統領の登場で大きく雰囲気は変わった。知識社会になっているし、田中さんのいう「陳述」する能力や、NGO、国際機関の枠組みの中でかなりのことが動いている。30年前ならば考えられなかったことであろう。

そういう背景のもとでこの本では国際社会の全体の見取り図を描く。とくに後半は東アジア(とインド)を中心にすえている。

また全体的に1930年代の「失敗」をどのように繰り返さないか、ということに論点がおかれている。当時は「持たざる側」がファシズム化したのだが、その国家にあたるのはいったいどこか?といった思考である。


第3章では、ジョン・サールの言語行為論を応用して、ソフトパワーの説明がされる。ここは疑問が残る。というのもサールの議論自体に疑問がある上に、デリダとの論争をどう考えているのかがわからないからだ。その点はあえて触れていないとしても、個人的にはもう少し緻密な議論が欲しかった。この章だけが異質だ。


読みやすい本はしばしばすぐ忘れてしまうけれど、考えるテーマがたくさん散りばめられている本だろう。それが意図されたものかどうかはわからない。


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