【書評】 ジャック・アタリ、『金融危機後の世界』


金融危機後の世界
作品社
ジャック・アタリ


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ジャック・アタリ。若いころより先鋭的な著作を発表してきた、単なる才人を越えた人。『ノイズ』や『アンチ・エコノミクス』、『カニバリズムの秩序』などといった、歴史を再編成し編集しなおす本を出してきました。


昨年の『21世紀の歴史』は、ここでも紹介しましたが、ここ数年でもっとも考えさせられた社会科学系の本。もっとも「予想」ではあるので「科学」とは呼びにくく、未来学的な作品でした。

ただ、現在と過去を正確に捉えていれば、その延長軸上の21世紀はうかがえる。貨幣の未来や、民営化、超民主主義など、自分(評者)が考えていることをより前進させていました。


さて、この『金融危機後の世界』(原著は2008年刊)は、上記の『21世紀の歴史』を追ベースにしながら、現在の金融危機と、その対応策を大胆すぎるほどに書いたものになっています。

もし『21世紀』の歴史を<読んでいない>なら、個人的にはお奨めです。読了している人にはむしろ繰り返しが多いので不要かもしれません。例外は第5、6章の処方箋の部分です。

基本は


+資本主義は、中心都市を変えてゆく。
+金融危機を乗り越えた地域が次の時代をリードする。


という考え方で、17世紀からの金融と政策を見てゆきます。そして大恐慌までおさらい。これが第2章。


そして続いて、「金融破綻」を時系列的に、1日ごとになにが起きたかをまとめてゆきます。アメリカ政府の混乱ぶりがよくわかります。(第3章)


第4章以降が、処方箋という意味ではこの本の核心部分になります。


アタリは状況をけっして楽観視していません。それは、とりあえず各国政府で対策は打たれているものの、世界の新しいシステム構築はG8やG20、国連などがほとんどなにもやっていないからです。

せいぜい、「スイスの銀行の透明化を進めましょう」とか、「金融機関のサラリーに上限を設定しましょう」、「会計基準を元に戻しましょう」くらいの提案が出ているだけです。






アタリは、「情報の非対称性」が危機の原因になるといいます。それから銀行は人類の発展にとっては不可欠だとも。

その条件のもとで、金融機関は情報をコントロールし、過度の収益性を得て利潤を独り占めにした。この収益性が高リスク商品への投資を一般にも生みだし、常軌を逸した投資を引き起こした。

そして結果的には銀行は国民の税金を使って救済されざるをえない状況になった。

アタリはこうまとめるのです。




そして、「個人の自由」の重視が根底にあり、民主主義(民主制)をすべての価値に優先させた。社会的な連帯は軽んじられた。つまり・・・個人の自由の優先が、不誠実や貪欲になってしまった。
ここに金融危機の原因を求めます。


そして最後の章では、国際的な機関の大規模な組み換えを提案しています。ここは以前の書、『反グローバリズム』のようにユートピア的表現が多くなっています。


ここは疑問が残るのではありますが、しかし、このまま行くとたとえばドルの信用が薄れてゆきかねません。€が通貨危機になるのを止めたとアタリは書いています。その当否はさておき、ドルに頼らない通貨を「創造」しなければ、次なる、そして信じられないような危機が実現してしまいます。


ケインズが提出しているしているバンコールBancorのような仮想通貨、あるいは通貨バスケット制(本書にも出てきます)が、本来は国際金融の議題に出ていいはず。


しかしIMFや世界銀行がそういう提案をするとは通常では思われない。ここが真の危機かもしれません。危険を承知で、しかしなにもせず、危険を実現してしまう。そして対策が取れる立場にいる人は、知らぬ存ぜぬを決め込む。世の中ではよくあることではありますが、本当にそうなってしまうかもしれません。

政府は「安全」なときにはなにも言いません。「いまの経済は安定しています」と政府は宣言するときは実はいちばん危ないときであります。そして、いまはまさに「経済は落ち着きだしている」というフレーズが各国の政府から聞こえてきます。


(参考までに)
http://www.amazon.fr/crise-apr%C3%A8s-Jacques-Attali/dp/2213643075/ref=sr_1_5?ie=UTF8&s=books&qid=1253275805&sr=1-5
(フランス語版)

http://www.amazon.com/Brief-History-Future-Controversial-Twenty-First/dp/1559708794/ref=sr_1_1?ie=UTF8&s=books&qid=1253275972&sr=1-1
(『21世紀の歴史』の英訳版)






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