【書評】 岩村充、『貨幣進化論』
なぜここまでデフレが延々と続くのであろうか? 金利を下げられるところまで下げても、「流動性の罠」に囚われたままなのはなぜか? もしかすると、これは経済構造が変わってしまっているからではないか?
こう考えるのが自然でしょう。
著者は、貨幣の起源からまず説き起こします。マルクスの価値形態論の部分をだいぶ簡略化しています。なぜ金が通貨になるのかの説明は、残念ながら不明確です。
また政府と暴力の関係も語られていません。しかし、それはこの本の性格からはズレるからと理解しましょう。
それ以外は、貨幣や金利の関係をこなれた表現で書かれています。学部生や、社会人でマクロ政策を学びたい人の入門書としては適していると思います。比喩にごまかされそうなところが問題ではありますが。
その辺りを「理解」されているかたは、最四章(「貨幣はどこへいく」)だけを読めばいいと思います。ここには重要な論点、最近の経済学でも議論になっていることが差し込まれています。
とくにテイラー・ルール(自然利子率+自然インフレ率)が当てはまらない状況になっている現在。フィリップス曲線が平行になってしまう傾向にある点。
ここには筆者が指摘するような、先進国で起きている少子化も影響しているかもしれません。またもっと別の消費スタイルが原因かもしれません。
経済成長率を下げよう、そのほうが環境、社会にとって望ましいという主張をする人がいます。広井良典さんや、セルジュ・ラトューシュです。広井さんは、ユートピストですね。通常の経済学者は無視するでしょう。
しかし、先進国経済の方向は、そちら、つまり成長率ゼロの定常型に向かっていると考える根拠がまったくないとはいえない。
惜しくも今年亡くなったアンガス・マディソンの長期的な成長グラフを見ると、この300年くらいが人類史のなかできわめて異常であったことがわかります。
では、定常型社会にいきなりなるわけもなく、なってしまうと「これは社会主義か?」ということにもなる。GDPが下がり、デフレ、高い失業率、債務増、貨幣価値下落。このストーリーをどう解決してゆくかを解き明かし、記述する必要がある。
つまり広井さんは「行き先」だけ書いて、そこまで何に乗っていけばいいのかを書いていない。ルートもわからない。
その点、岩村さんは、最後に多少書いてあります。電子マネーを使うんだそうです。自分にはそれでいいのかどうか、よくわかりません。そういう意味で考えさせてくれる本。
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