【紹介】 グランド・ツアー(岡田温司さん、その他) Grand Tour Studies
岡田温司さんの新著のひとつです。
いままで、グランドツアーについての包括的で、入門的な本がありませんでした。このグランドツアーからヨーロッパの概念がより強化されたともいえます。また美術、芸術全般の価値観の変化、自然観の変化(アルプスの山が美的対象になってゆく)、レストランやホテルの展開など、広範な貴族、ブルジョワの間での運動であったといえるでしょう。
岡田さんのこの新書では、とくにイタリア側、つまりツーリストを受け入れる側からの視点を重視し、ふだんあまり言及されないであろう画家、作品を豊富な画像とともに紹介しています。引用も多数です。
ゲーテ、ピラネージ、カナレット、ティエポロといった作品の提示や、アダム・スミス、ロック、ギボン、モンテスキューなどが当時のイタリアを家庭教師として、あるいは自ら訪れていることへのエピソード的言及があります。
トーマス・ジョーンズの絵画はとくに興味を惹きます。
この本と、現在品切れになっている(絶版?)、本城靖久さんによる『グランドツアー』を読めば、一応のこの「運動」の全体像はわかるでしょう。(もともとは中公新書で、その後で中公文庫に入っています。自分が持っているのは後者)。本城さんのほうはイギリス中心に書かれています。
このグランドツアー(グラン・ツール)に関する研究は、このところ欧米でも少しずつ進んできているのですが、まだわからないことも多い。どうしてこのような「古代ローマ」への憧憬が生じたのか? グランドツアーが、ヨーロッパの観光の起源と考えていいのか? 大旅行を生んだ経済社会的な背景はなにか?といったようなことですね。
自動車の種類で、グランツーリスモという分類がありますが、とくに直接関係はないはず。またミレ・ミリアについても同様かと思われますが、詳細は不明です。
同じ、岡田さんの著書、『半透明の美学』。
ひじょうに興味深い主題を設定されてはいると思います。半透明の建築や素材も増えていますし、また情報という視点から考えても、半透明は非対称性をともないやすいです。浸透といった話題にも通じます。
しかし、残念ながら、この本のなかでは、半透明は充分には追求つくされているとはいいにくいでしょう。アリストテレスのディアファーネスという概念を応用してゆくのですが、そのことでなにが明確になるのか、自分には最後までわかりませんでした。
もちろん美学が感性についての学問=感性学=であるということは、「美学」としては共有されていることでしょう。その上での議論であることは理解しているつもりです。
ところどころ、印象的な分析はあり、それはフランシス・ベーコンや絵画における埃(ほこり)という視点だともいえます。
どうもテーマの周囲をぐるぐる回っている、あるいは歯にものが挟まったような記述が多いのが気になります。『生政治』について書かれているときとはまるで別人のようです。岡田さんのどういう精神分析的な原因が、このような本を書かせているのか?と考えたくなるような本であります。



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