2013年 個人的なベスト Best Arts of the year 2013
▼本:
『2052』
これは昨年に読んだ本では、もっともインパクトがありました。
人口の予想から、社会の変動、ゲームまで、「あの」ローマ・クラブのヨルゲン・ランダースがリーダー的存在としてモデリング、シミュレーションをしたもの。
ノルウェーを中心とした、環境系の学者の短い論文集。全体を読むと40年後の世界が浮かび上がってきます。環境重視の北欧的な考え方が反映。
ここから議論ができる本。
『幸福の経済学』
これは一見、経済系の本ですが、「幸福度は所得と関係があるのか」を調べた論文。読みにくい翻訳、日本語なのがとても残念。
ただ相対的な幸福と絶対的な幸福をわけて考えているところは興味深いですし、「世の中、お金じゃない」という面も垣間見えます。調査方法も独特。
『海から見た歴史』
これはすごい。
なにがすごいかというと、1つひとつの論文が共著になっているんです。物理や生物の論文では、著者が何人かいるのはよく見ます。共同研究ですね。しかし、文系の、とくに歴史学では珍しいでしょう。
そのうえで、15世紀以降の東アジアの海域の展開が新しい視点で書かれています。明清、また海禁政策前の日本と東南アジア、といったテーマです。新規知見、多数。一般書ですがやや専門的。世界史の知識があれば充分に楽しめます。またただ楽しめるだけではなく、21世紀の世界像も描けてきます。
網野善彦、『日本中世都市の世界』
ちくま学芸文庫に入っていたものが、こんどは講談社学術文庫から出ました。久しぶりに再読。自分の関心がこのへんに移ったせいか、とてもわくわくしながら読みました。とくに第三章の文章は、「網野史学」の入門としてはもっともよいかもしれません。どうして都市からの視点が大事なのか。文字通り、「熱い」文章です。
ドミニク・チェンの本には影響を受けました。彼が影響を受けている1人、ウンベルト・エーコを読むきっかけにもなりました。実はいままで少ししか読んでいなかったのです。『小説の森』から『開かれた作品』を読む契機に。
▼小説
これに尽きます。いろいろな受賞歴があるのも納得。
重たいナチスものか、と思いきや、そうではないんです。現在の自分(小説の筆者)と、過去の時代を行き来する。行き来している間に、70年間くらいの時間の感覚がだんだん崩れてきて、遠い過去ものとは思われなくなってくる。ところどころに女性が入ってくるのも、歴史と書くことに影響をしている。
これだけの小説はそうそうないと思います。
日本語で書かれたものでは、宮内悠介さんに期待しています。
▼展覧会:
グルスキー展
http://gursky.jp/
これは美術におけるテクノの相当するのかな、というのが第一印象。
でもそれだけじゃあない。自然界に対する見方、またたとえばF1コースのような人工物に対する見方が自然界を見る見方と似てくるのではないか。
グーグルマップスを見ていると、人工物が自然物に見えたり、その逆があったりしますが、少し距離を置いてみると、人間が作っているものは、自然物とそれほど異質ではないのかもしれません。人為と自然の差を考えさせられます。
京都ー洛中洛外図と障壁画の美
http://www.ntv.co.jp/kyoto2013/
学芸員のかたに頭が下がってしまう展示でした。圧倒的。よくこれだけ集めたなという印象。
ひじょうに混んでいたので、細部を逐一見れませんでしたが、これだけの屏風をなぜ書いたのか、またこれだけフラットな視点なのはなぜか、という疑問がふつふつと沸き上がる展示でした。
16世紀の京都の歴史的史料で、また美術でもあります。
▼映画:
『愛、アムール』
これは万人向きの映画ではない、かとも思います。しかし、テーマは万人に起こるもの。一見すると介護の夫婦の介護の映画ですが、それは表向き。男性から見た、愛、愛情の形です。
『オブリビオン』
評判は悪いです。というのもシナリオが不完全だからですね。
でも、この映画の透明感は捨てがたい。またドローンの恐ろしさもよく出ています。メカのデザインも秀逸。
『言の葉の庭』
新海誠さんの新作。前作と打って変わって、従来の「新海路線」に戻りました。雨のシーンだけでもはや映画になっています。
『エリジウム』
これはほとんど現在の世界かもしれません。監督の前作のほうがいいという人も多いようですが。
『イントゥ・ダークネス』
脚本の勝利であるとともに、映像もCGらしさが消えています(『パシフィック・リム』もそうでした)。映像の革命が起き始めているのかもしれません。
『悪の法則』、脚本がよかったですね。乾いた世界というより、荒涼とした世界。
コーマック・マッカーシーの世界。彼しか出せない世界。
『攻殻機動隊ARISE border:2 Ghost Whispers』
これもよかったです。ARISEになって、どうなるか、と気になってました。実際、border1は個人的な話に終始。これは厳しいかな、と思っていたら、2になって俄然おもしろくなってきました。
黒澤明監督の『七人の侍』でいえば、7人を集めるところに相当します。しかし、それがグローバルな問題を背景にして起きます。とくに閉じられた空間での理由がある戦闘も多い。
あまりARISEがお好きではない人がいるようですが、僕は強く支持します。
▼音楽:
The Future News賞: Buika
以下、順不同です。
Zedd
Mat Zo
Pat Metheny
Rovo and System7
Nils Frahm(コンテンポラリー)
Zak Waters(これはポップスに分類されますね)
dusty kid
この音質がよいものがiTunesではDLされます。個別の曲も同時にDL。
80 Kidz " 80:XX - 01020304"
これだけのアルバムが出てくるとは予想しませんでした。バキバキテクノ。前作はなんだったの?と思うくらいに凄い。
George Duke
まだまだこれから、というときに亡くなりました。こういうプロデュース的なところにも秀でていましたね。クインシー・ジョーンズのような面もあり、また歌も歌え、ジャズをやれば天下一品でした。残念。
Juana Molina
アルゼンチンのヴォーカリスト。数枚アルバムが出ていますが、これは充実。エレクトロをふまえてますね。
Maya Jane Coles
これも2013年前半によく聴きました。
今年はいいアルバムが本当に多かった。あとはきゃりーぱみゅぱみゅ、Hideki Umezawa(YouTubeにもiTunesにもないので紹介できません)など。
クラシック音楽でもいいものはありました。
▼照明:
Pet Shop Boys
アルバムは、完全にいまのEDM、エレクトロ対応になってましたが、同時に演出もよかったです(ソニック・マニア、サマーソニックともに。どちらも同じ照明、演出でした)。色味がよかったのと、レーザーに安易に頼らないのも素晴らしかった。緑、青の発色は特筆すべき。キャラもいましたw
音楽に関しては、これ。80年代の色を残したエレクトロ。
▼舞台:
今年は舞台を見たのが相当に減少。五反田団など見たいものは多かったのです。『ピグマリオン』なども。しかし、諸事情で厳しかった。チケットがあっても見れなかったものも。その中でのご紹介。
『MIWA』
いつもいつも野田秀樹さんのものを挙げるのはどうかとは思います。でも前作、『エッグ』は失敗作だったように、野田さんは当り外れが激しい。
http://www.nodamap.com/miwa/top.html
↑こちらは、脚本、キャスティングともに素晴らしかった。予想外だったのが、井上真央さん。かなりの存在感がありました。
美輪明宏さんの歴史というよりは、戦後史の中に美輪さんが出てくるという感じ。もう野田さんはそのこと=歴史もの=ばかりです。
▼ライヴ:
ポール・マッカートニー ポップスではこれか。なんど聴いても新しい曲に聞こえます。
マイスタージンガーも印象に残る。
Breakbotはライヴのほうがぜんぜん素晴らしいですね。Justiceも。
サマソニ、2013年は特に暑く、生命にやや危険な感じがありました。炎暑のなかでのライヴ(ロック・イン・ジャパン、りんご音楽祭なども)、なにか対策を取る必要もありでしょうね。個人任せではなく。
なお、2012年のベストはこちら↓ そろそろ年間ベストをはじめて9年め?くらいです。はじめはmixiで書いたのでした。
http://extra.at.webry.info/201212/article_1.html
『2052』
これは昨年に読んだ本では、もっともインパクトがありました。
人口の予想から、社会の変動、ゲームまで、「あの」ローマ・クラブのヨルゲン・ランダースがリーダー的存在としてモデリング、シミュレーションをしたもの。
ノルウェーを中心とした、環境系の学者の短い論文集。全体を読むと40年後の世界が浮かび上がってきます。環境重視の北欧的な考え方が反映。
ここから議論ができる本。
『幸福の経済学』
これは一見、経済系の本ですが、「幸福度は所得と関係があるのか」を調べた論文。読みにくい翻訳、日本語なのがとても残念。
ただ相対的な幸福と絶対的な幸福をわけて考えているところは興味深いですし、「世の中、お金じゃない」という面も垣間見えます。調査方法も独特。
『海から見た歴史』
これはすごい。
なにがすごいかというと、1つひとつの論文が共著になっているんです。物理や生物の論文では、著者が何人かいるのはよく見ます。共同研究ですね。しかし、文系の、とくに歴史学では珍しいでしょう。
そのうえで、15世紀以降の東アジアの海域の展開が新しい視点で書かれています。明清、また海禁政策前の日本と東南アジア、といったテーマです。新規知見、多数。一般書ですがやや専門的。世界史の知識があれば充分に楽しめます。またただ楽しめるだけではなく、21世紀の世界像も描けてきます。
網野善彦、『日本中世都市の世界』
ちくま学芸文庫に入っていたものが、こんどは講談社学術文庫から出ました。久しぶりに再読。自分の関心がこのへんに移ったせいか、とてもわくわくしながら読みました。とくに第三章の文章は、「網野史学」の入門としてはもっともよいかもしれません。どうして都市からの視点が大事なのか。文字通り、「熱い」文章です。
ドミニク・チェンの本には影響を受けました。彼が影響を受けている1人、ウンベルト・エーコを読むきっかけにもなりました。実はいままで少ししか読んでいなかったのです。『小説の森』から『開かれた作品』を読む契機に。
▼小説
これに尽きます。いろいろな受賞歴があるのも納得。
重たいナチスものか、と思いきや、そうではないんです。現在の自分(小説の筆者)と、過去の時代を行き来する。行き来している間に、70年間くらいの時間の感覚がだんだん崩れてきて、遠い過去ものとは思われなくなってくる。ところどころに女性が入ってくるのも、歴史と書くことに影響をしている。
これだけの小説はそうそうないと思います。
日本語で書かれたものでは、宮内悠介さんに期待しています。
▼展覧会:
グルスキー展
http://gursky.jp/
これは美術におけるテクノの相当するのかな、というのが第一印象。
でもそれだけじゃあない。自然界に対する見方、またたとえばF1コースのような人工物に対する見方が自然界を見る見方と似てくるのではないか。
グーグルマップスを見ていると、人工物が自然物に見えたり、その逆があったりしますが、少し距離を置いてみると、人間が作っているものは、自然物とそれほど異質ではないのかもしれません。人為と自然の差を考えさせられます。
京都ー洛中洛外図と障壁画の美
http://www.ntv.co.jp/kyoto2013/
学芸員のかたに頭が下がってしまう展示でした。圧倒的。よくこれだけ集めたなという印象。
ひじょうに混んでいたので、細部を逐一見れませんでしたが、これだけの屏風をなぜ書いたのか、またこれだけフラットな視点なのはなぜか、という疑問がふつふつと沸き上がる展示でした。
16世紀の京都の歴史的史料で、また美術でもあります。
▼映画:
『愛、アムール』
これは万人向きの映画ではない、かとも思います。しかし、テーマは万人に起こるもの。一見すると介護の夫婦の介護の映画ですが、それは表向き。男性から見た、愛、愛情の形です。
『オブリビオン』
評判は悪いです。というのもシナリオが不完全だからですね。
でも、この映画の透明感は捨てがたい。またドローンの恐ろしさもよく出ています。メカのデザインも秀逸。
『言の葉の庭』
新海誠さんの新作。前作と打って変わって、従来の「新海路線」に戻りました。雨のシーンだけでもはや映画になっています。
『エリジウム』
これはほとんど現在の世界かもしれません。監督の前作のほうがいいという人も多いようですが。
『イントゥ・ダークネス』
脚本の勝利であるとともに、映像もCGらしさが消えています(『パシフィック・リム』もそうでした)。映像の革命が起き始めているのかもしれません。
『悪の法則』、脚本がよかったですね。乾いた世界というより、荒涼とした世界。
コーマック・マッカーシーの世界。彼しか出せない世界。
『攻殻機動隊ARISE border:2 Ghost Whispers』
これもよかったです。ARISEになって、どうなるか、と気になってました。実際、border1は個人的な話に終始。これは厳しいかな、と思っていたら、2になって俄然おもしろくなってきました。
黒澤明監督の『七人の侍』でいえば、7人を集めるところに相当します。しかし、それがグローバルな問題を背景にして起きます。とくに閉じられた空間での理由がある戦闘も多い。
あまりARISEがお好きではない人がいるようですが、僕は強く支持します。
▼音楽:
The Future News賞: Buika
以下、順不同です。
Zedd
Mat Zo
Pat Metheny
Rovo and System7
Nils Frahm(コンテンポラリー)
Zak Waters(これはポップスに分類されますね)
dusty kid
この音質がよいものがiTunesではDLされます。個別の曲も同時にDL。
80 Kidz " 80:XX - 01020304"
これだけのアルバムが出てくるとは予想しませんでした。バキバキテクノ。前作はなんだったの?と思うくらいに凄い。
George Duke
まだまだこれから、というときに亡くなりました。こういうプロデュース的なところにも秀でていましたね。クインシー・ジョーンズのような面もあり、また歌も歌え、ジャズをやれば天下一品でした。残念。
Juana Molina
アルゼンチンのヴォーカリスト。数枚アルバムが出ていますが、これは充実。エレクトロをふまえてますね。
Maya Jane Coles
これも2013年前半によく聴きました。
今年はいいアルバムが本当に多かった。あとはきゃりーぱみゅぱみゅ、Hideki Umezawa(YouTubeにもiTunesにもないので紹介できません)など。
クラシック音楽でもいいものはありました。
▼照明:
Pet Shop Boys
アルバムは、完全にいまのEDM、エレクトロ対応になってましたが、同時に演出もよかったです(ソニック・マニア、サマーソニックともに。どちらも同じ照明、演出でした)。色味がよかったのと、レーザーに安易に頼らないのも素晴らしかった。緑、青の発色は特筆すべき。キャラもいましたw
音楽に関しては、これ。80年代の色を残したエレクトロ。
▼舞台:
今年は舞台を見たのが相当に減少。五反田団など見たいものは多かったのです。『ピグマリオン』なども。しかし、諸事情で厳しかった。チケットがあっても見れなかったものも。その中でのご紹介。
『MIWA』
いつもいつも野田秀樹さんのものを挙げるのはどうかとは思います。でも前作、『エッグ』は失敗作だったように、野田さんは当り外れが激しい。
http://www.nodamap.com/miwa/top.html
↑こちらは、脚本、キャスティングともに素晴らしかった。予想外だったのが、井上真央さん。かなりの存在感がありました。
美輪明宏さんの歴史というよりは、戦後史の中に美輪さんが出てくるという感じ。もう野田さんはそのこと=歴史もの=ばかりです。
▼ライヴ:
ポール・マッカートニー ポップスではこれか。なんど聴いても新しい曲に聞こえます。
マイスタージンガーも印象に残る。
Breakbotはライヴのほうがぜんぜん素晴らしいですね。Justiceも。
サマソニ、2013年は特に暑く、生命にやや危険な感じがありました。炎暑のなかでのライヴ(ロック・イン・ジャパン、りんご音楽祭なども)、なにか対策を取る必要もありでしょうね。個人任せではなく。
なお、2012年のベストはこちら↓ そろそろ年間ベストをはじめて9年め?くらいです。はじめはmixiで書いたのでした。
http://extra.at.webry.info/201212/article_1.html
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