【書評】大塚ひかり全訳、『源氏物語』、"Genji" and 1001 years

やっと「読みやすい」現代語訳が出ました!



自分のことで恐縮ですが、白状すると 『源氏物語』を原文で通読したことはありません。高校生のころ、円地文子訳が文庫になり、それで知っている程度。それから高校の図書室にあった、玉上琢彌さんの『源氏物語評釈』を読んで、こういう背景や解釈があるんだ、ということを知っていた程度(これは一巻くらいであとは見ていない)。

それから源氏関連でいえば、橋本治さんの「創作」といえる『窯変 源氏』。これはこれで圧倒的に素晴らしく、プルーストの作品のようでもあるけれど、現代語訳ではないので横においておきます。
窯変 源氏物語〈1〉
中央公論社
橋本 治


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さて、現在刊行中の大塚ひかり全訳ヴァージョンですが、特徴が明快です! それは源氏物語は「エロ」な物語であり、「セックス政治」を背景にして書かれたもの。だから翻訳も曖昧にぼかさず、はっきりと訳す。そして時代背景や文化的背景、当時の言語用法にかんしては「ひかりナビ」で数ページごとに補う。

簡単にいうと、「通勤電車で読む源氏物語」。実際自分がそうです。持ち歩いて読んでいます。


あまりに直接的なエロさゆえ、中高生には読ませたくない。またスポーツ紙の売り上げも落ちてしまう。もともとは光源氏という稀有な人物(スーパーイケメン+貴族中の貴族+音楽や和歌がうまい+スーパーリッチ)を中心にした女性遍歴もの。エロくないはずがない。


では、いままでなぜわかりにくい原文を読んでいたのか、とか現代語訳であったのか? それは大塚氏によると敬語だ、という。たしかに「・・・とお思いになるのも仕方のないことでした」と訳されても、古文の授業ならさておき、文章のリズムは乱れるし、結局なにがどうしたの?ともう一度考えないとならない。

その点を大幅にばっさり省略し明確にしたのがこの現代語訳のポイントか。『性愛源氏』とでも呼べる。もちろんそのぶん批判されるポイントも出てしまうが、それは本人がもっともよく了解していることなのではないか。

全6巻の予定。来年に完結予定のようですが、はやく出して欲しい。


大学受験時に読んだ、主語がどれだかぜんぜんわからない、パズルのような文章。それはそれで面白かったけれど、内容にいまいち踏み込めなかった。「紫の上」の話で、これは男の理想だよね、と高校3年生のときに友人と語っていた程度。
いまはきちっと原文を音読してみたくなる。それはこの大塚訳のおかげ。

もちろんここから谷崎訳や瀬戸内訳に進むのもありでしょうし、江上達也さんの漫画にいくのもあり(こちらはエグいので自分にはムリです)でしょう。

『源氏』というと多くの人は「桐壺」で止まる。ところが『源氏』の前半の重要な巻、「帚木」(ははきぎ)まで一気に読める(というか読ませられてしまう)ところが素晴らしい。



2つだけ疑問。

大塚ひかり訳でよく言及されているのが、上記の玉上琢彌、『源氏物語評釈』。これはいまから40年ほど前の研究書です。この時代から源氏の研究が進歩していないはずはないでしょう。いいのでしょうか。自分にはわからないのですが、気になるところ。それと歴史学(中世史)の成果ももう少し「ナビ」の中に入れていただくと嬉しい。
注釈が長くなるなら、巻末にまとめるとか。中世史の「激変」に関してはご存知のはず。
読みやすい翻訳だから、レベルを下げていいということにはならない。かえってすぐに古くなってしまうでしょう。

ここから古典翻訳について考えることもできそうですが、無粋になりそうなので、いまは本の紹介にとどめておきます。








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