【映画評】『インセプション』(C・ノーラン監督)Inception,layer of dreams

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わたしたちを取り巻いている世界とはいったいどういう構造をしているのだろうか?
そしてまた、自分周囲の世界は現実に存在しているのだろうか?
こういう疑問はほとんどの人が一度はもつのではないだろうか。
(映画の「内容」についても書きますので、ご注意ください)



この映画においては、他者との夢の共有、そして夢の階層性を中心に据え、話題が展開してゆく。一見多くの要素が入り込んでいるため、それほど単純な世界の構造とは見なしにくくなっている。


ストーリーボードの軸は、ある巨大企業の中での父と子の葛藤、確執であり、企業の独占化を防ぐために資産家サイトー(渡辺謙)が行動をすることにある。夢をあやつろうとしているのは、主人公コブ(レオナルド・ディカプリオ)なのだが実はコブには、失われた妻マルMal(マリヨン・クティヤール)への罪悪感がある。またコブは、妻殺しの容疑でを故国アメリカに入国できない。2人の実の子の幻影にも囚われている。これが基本的背景だ。



劇中は、現実と夢の世界から成る。

現実はリアルな「社会」、つまりシドニー=ロス間の10時間のフライトだ。

夢の世界は4つの階層から成る。すなわち

①白いヴァンの落下
②無重力に陥るホテル
③戦闘が行われる夢世界
④サイトーの豪邸の夢世界だ。主人公の記憶と混同している夢も入れると、5つになる。


アリアドネの糸というギリシャ神話で有名な話がある。彼女は迷路から脱出するために糸を使う。この作品ではアリアドネ(エレン・ペイジ)が、重要な判断を何度か下すのだが、それは、アリアドネという役名からして当然だろう。夢の世界という混沌とした状況を、アリアドネは整理する。また最後の危機においてアイデアを出す。
彼女の登場の場面ではたして彼女が有能かどうかをドブが試験をするが、それも迷路作成という空間把握能力だ。


もうひとつ。この作品では、金庫がきわめて重要な位置を与えられる。サイトーの家にある金庫。現実か夢かを区別するアイテムであるトーテムをしまう金庫。遺言の金庫だ。この世界の情報で、本当に重要なものは金庫に仕舞われているのだ。それを開いたり、閉じたりするのが、この映画と呼んでもいいだろう。


編集能力が卓抜なので、層状になった物語も、掴みやすい。キャメラは手持ちを含めて激しく動く。とくにヒュンダイに乗っている際の襲撃シーンは短いながら、エンタテイメント性が高い。


夢に世界から戻る方法はキックkickと呼ばれる。ここではエディット・ピアフを音楽を聴かせると目覚めることができる設定にされている。
音楽担当のハンス・ジマーは、このピアフの曲のテンポを遅くしたものが、冒頭にかかるオーケストラサウンドであると言っている(ニューヨークタイムス紙より。夢でに世界は高速で物事が進行し、それゆえ現実よりも時間はみじかいから、これは音楽と世界の構造は対応していることを意味する。また映像も必然的にスローモーションになる。


通常の<現実と仮想>というテーマであればウェブを題材に使うだろうが、ここではウェブは一切排除されている。おそらくこれは意図的だ。
7人ではなく6人でのミッションだ。人材の集め方は、『七人の侍』と似ているわけではないが、四方田犬彦さんが書く『七人の侍』ケースと考えていいだろう。


はたして自己の夢は他者と共有できるのだろうか、そしてその方法は?という部分は明かされない。しかし、それでいいのだろう。「胡蝶の夢」(荘子)やボルヘス、カントやショーペンハウエル、生物学的時間といった人名や理論を一切出していないところも好感が持てる。


エンディングは、オープンエンドになってわたしたち観客に「解釈」は任されている。主人公コブの夢である、ということもありえなくはないが、そう見なければならない根拠はないだろう。


父と息子、夫婦と子供、幻影と現実というところで泣くこともまた可能だ。ディカプリオの決まりきった演技は、この場には相応しい。アーサー役のジョセフ・ゴードン・レヴィットが好演。キャスティングの成功が映画の成功の一因になっている。音響、キャメラの構図、各種の建築物などは綿密なだけにぜひ大きな画面、映画館で愉しみたい。
★★★★★(5/5)


以下、参考までに。
ピアフとテーマ音楽の関係 :


アイデア自体は監督のものとある。
http://artsbeat.blogs.nytimes.com/2010/07/28/hans-zimmer-extracts-the-secrets-of-the-inception-score/

ワーナー映画。35mm アスペクト、2.35:1


小説として近いものは、ホルへ・ルイス・ボルヘスか。たとえば:

砂の本 (集英社文庫)
集英社
ボルヘス


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表象の性格を徹底的に考えたショーペンハウエル。ボルヘスは彼からの影響を隠さずに書いているし、またリヒャルト・ワーグナーもそうだ。

意志と表象としての世界〈1〉 (中公クラシックス)
中央公論新社
ショーペンハウアー


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上記の『七人の侍』についての簡略な情報 :

『七人の侍』と現代――黒澤明 再考 (岩波新書)
岩波書店
四方田 犬彦


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    Excerpt: 渡辺謙の堂々たる存在感。 人によっては、更に深く深くストーリーを検証し、違う解釈を導き出される方もおられるだろう。 あまり考え過ぎると、作品さながら夢の中でも考え込んでしまうのでご注意を。 観客の頭脳.. Weblog: 名機ALPS(アルプス)MDプリンタ racked: 2010-08-22 04:04
  • 映画を観るなら インセプション

    Excerpt: 突拍子も無い理論をネタにして無理矢理映像化してみたような内容だった。何度も何度も「ありえねー」と思ってしょうがなかったけれど発想がユニークで引き込まれてしまう不思議な映画でした。もっとアクション性の強.. Weblog: 映画を観るなら racked: 2010-12-29 23:58
  • プラダ 財布

    Excerpt: 【映画評】『インセプション』(C・ノーラン監督)Inception,layer of dreams 田中公一朗 "The Future News"/ウェブリブログ Weblog: プラダ 財布 racked: 2013-07-09 00:51